レポート

2023.09.01

地域創生の先駆─ 一関市のおもいやり型ふるさと納税が拓く未来。岩手県一関市のふるさと納税に対する取組についての分析レポートです。

こども食堂支援が描く、ふるさと納税の輪と社会への深化が温かな絆を広げます。

一関市は岩手県最南端の自治体で、歴史文化遺産とSDGs都市として知られています。ふるさと納税においてはこども食堂支援など独自アプローチを取り、地域経済活性化も重視しています。寄付金循環の施策も展開し、地域事業者を支援しています。次世代には地域貢献と新たなチャレンジの重要性を伝えています。

一関市は岩手県最南端に立地する自治体であり、人口11万人と盛岡市、奥州市に次ぐ規模の市です。平安時代から中世までの豊かな歴史文化遺産を残しながら最近ではSDGs未来都市に選定されるなど、地域創生の取り組みにも積極的です。今回はここ一関市でふるさと納税を担当されているまちづくり推進部交流推進課課長補佐兼移住定住係長の松谷(まつや)俊克氏にお話をお聞きしました。

後発自治体として返礼品競争、寄付額競争を回避する

私がふるさと納税業務に着任したのは6年前です。一関市が本格的にふるさと納税に取り組み始めたのは平成30年であり、全国的にもかなり遅いスタートでした。後発自治体として他の自治体と寄付額競争をするのではなく、一関市独自の取り組みをすべきという気持ちがありました。

令和3年にSDGs未来都市の指定を受けたことをきっかけに、ふるさと納税においてもSDGs達成に寄与しようと2つの課題を掲げました。

当時、市内でもすでにSDGsに取り組んでいる事業者さんはたくさんありました。こうした事業者さんをPRしていくことが課題の1つ目です。2つ目は、何かしらのSDGsの具体的な活動に対して、ふるさと納税を通じて形ある支援をすることです。これらの課題解決を模索していたタイミングで一般社団法人こども食堂機構(以下、「機構」)から連携のご提案をいただき、こども食堂を支援する寄付を立ち上げることになりました。これが一関市のふるさと納税の方向性を決定づけることになったのです。

貧困、フードロス、生産余剰を同時に解決するおもいやり型返礼品

こども食堂とは、生活困窮者やひとり親家族など、家族揃って十分なご飯を食べることが難しい全国のこども達に、手作りで温かい食事を提供する事業です。この事業を応援したい寄付者は返礼品を受け取らない代わりに、一関市が全国のこども食堂に地元食材を贈ることになります。この寄付者に対する返礼品のないタイプのいわゆる「おもいやり型返礼品」として、寄付金額は5000円から1000万円まで幅広く選べるようにしています。

実際に贈られる食材は、SDGs(フードロス削減)の取組を兼ねていることから、出荷規格を満たさない野菜。味や品質は問題ないものの形や色が悪い訳あり品。予想以上に採れてしまった余剰品など、正規の販路に乗せられず廃棄するしかない食材をセットにしたものです。機構が全国のこども食堂に何セット必要かを聞き取り、取りまとめ、それに応じて一関市が食材セットを発送する仕組みです。

市のビジョンと社会課題に合致した取り組みで独自性が高まる

 当初は返礼品もないのに本当に寄付者が現れるのだろうかと、心配で心配でなりませんでした。初めて1万円の寄付が入った時には、もう涙が出るほどうれしかったことが忘れられません。そのうち寄付も流れに乗ってきて大口の寄付もいただけるようになりました。今では供給量より食材を送ってもらいたいと言ってくださる食堂の方が多くなり、先着順にせねばならないほど活発化しています。直近の利用実績は年間で約700万円の寄付をいただき、そのうち約200万円分の食材を40箇所のこども食堂にお送りしました。こども食堂の利用者からの感謝はもちろんのこと、寄付者からも「いい取り組みなのでもっと広めてほしい」と応援をいただいています。農家さんからは、捨てるしかなかった野菜が人のためになり、かつ、売上になるので大いに喜んでもらっています。

また、こどもの居場所としての役割もあるこども食堂には、「こども食堂=生活困窮者」のイメージになっている課題や、こどもが地域の大人と関わる機会が減っているといった課題解決にも取り組んでいると知ることができました。そこで、私たちは食材の送付と合わせて「フードレスキュー隊のみんなへ」というチラシを同梱し、SDGsを学ぶ機会、食事をとおして大人と関わる機会、社会貢献をしているという自信に結びつけつる機会を生み出すことにも取り組んでいます。ふるさと納税を通じたこども食堂への支援は、SDGs未来都市の一関市ビジョンとも合致し、かつ、全国でも例のない一関市独自の取り組みになっているのではないでしょうか。

寄付金を地域に循環させる2つの仕組み

後発自治体ということでSDGsの他には、得られる寄付金をいかに市外流出させないか。つまり、いかに地域に循環させるかにはこだわりました。平成30年からふるさと納税を本格化させたのですが、それまでに先行自治体を視察し情報収集していました。そこで、「大手の中間事業者に委託すると、返礼品開発すると言いながらあまり地元には来てくれない」という話を耳にしました。確かに、中間業務の委託先を都会の大手事業者から地元業者に切り替える流れが当時はありました。そこで一関市では都会の大手事業者に頼ることなく市内から公募し、地元DMO(観光庁が指定する観光地域づくり法人)に委託することにしました。平成30年にふるさと納税を本格化してから5年間、ずっと一緒に仕事をしています。彼らの経験や人脈が充実していくことは、地域経済にとってプラスになると思っています。他にも寄付金を地域に循環させる施策として、ふるさと納税で得られた寄付金を財源に令和4年に新たに補助金を創設しました。

これはふるさと納税に登録する事業者に対し返礼品開発費用を補助するものです。返礼品開発に取り組んでもらえるのであれば業種を問わず、農業、商業、工業から個人事業主まで広く対象となります。部署の垣根を超えて、市として多種多様な事業者を応援できるのはふるさと納税ならではです。この補助金で開発した返礼品は自社商品としても独自に販売できるというルールですので、市の寄付獲得だけではなく事業者の売上拡大にもつながります。初年度は1000万円の予算に対し実際の申請は16件でした。

このように、得られた寄付金で地域の事業者さんの新たなチャレンジを応援し、それが地域経済を活性化させていくという流れを作りつつあります。

事業者さんを訪問することで見えてくる課題と成果

今日、このインタビューの後はナス農家さんにお会いすることになっています。この方との出会いは、2年前にJAのナス部会でふるさと納税の制度説明をしたことでした。当時の参加者の感想としては、「すごくもうかりそうだね」「しかし出荷に時間が取れない」ということで、ふるさと納税に参加するという人は残念ながら誰もいませんでした。

それから2年。制度説明を聞いてくださった人の中から、ふるさと納税にチャレンジしたいとの電話がありました。聞けば、当時に比べパートさんが仕事に慣れてきたので、仕事をもっと任せて給料も増やしてあげたいとのこと。年間30万円の売上が増えれば、パートさんの時給を1000円まで上げることができるから、ふるさと納税にチャンレジしてみたいとのことでした。今日はこの取り組みを進めるための打ち合わせです。

2年越しではありますが、地域の事業者さんが新しいことにチャレンジしてくださることになりました。市としての寄付額がどれだけ増えるか減るかということより、ふるさと納税をきっかけに新しいことに取り組んでもらえることがうれしかったです。地域の事業者さんにふるさと納税にもっと参加してもらい、もっと新しいことにチャレンジしてもらうことが私の役目であると、事業者さんのところに足を運んでいます。

次世代の皆さんには自分の目と足で知見を広げてほしい

ふるさと納税を担う次世代の方には、寄付額だけに捉われることなく、地元事業者や地域経済にどれだけ貢献できるかの視点を持っていただきたいと思っています。これまでふるさと納税業務を通じてたくさんの経営者さんから興味深いお話を聞かせていただき、これが大いに自分自身の学びになってきました。しかしこの業務に携わって6年。そろそろ次の人に任せねばならないタイミングかもしれません。

私は一関で生まれ一関で育ちそのまま市役所に就職しました。市職員として働きながら、バンド活動や演劇に没頭した時期を経て、今の趣味は親子で活動している道化師、クラウンろっくとしての活動です。結婚式の余興などに月1、2回ボランティアで出演しています。クラウンの濃いメイクをするので市職員とバレないだろうと始めたのですが・・・、すぐに私とバレてしまっていました。なぜでしょうね。不思議ですね(笑)。そんなこんなもありながらクラウンろっくとしての活動ももう16年、ライフワークとして死ぬまでつづけるつもりです。

仕事としてのふるさと納税。ライフワークとしてのクラウンろっく。この真逆の組み合わせがどちらも地域に密着することや人脈を広げることにつながっています。クラウンろっくとして地域イベントに出ることと、ふるさと納税を担当することは、私にとっては地域貢献という意味で同じことです。私は税務や教育の部署を歴任した後、ふるさと納税の前は政策企画課にいました。内向きの仕事より人と直接触れ合うのが好きなので、今の仕事が一番おもしろいと断言できます。周りから見たら、もうそれは非常識なほどに事業者を訪問して回っています。やはり、今だにインターネットが十分に使えないアナログ環境の事業者も一定数いらっしゃいます。そんな中でも、ふるさと納税という新たなチャレンジを楽しんでいらっしゃる方にもたくさん出会いました。

ふるさと納税業務では、事業者さんへの訪問を通じて知見も広がりますし、解決すべき地域課題も再発見できます。これらは他の部署に異動したとしても役立つものと信じています。

 
(インタビューを終えて=あとがき)
松谷氏は自治体職員でありながら、クラウンろっくというユニークな活動で地域貢献を行っています。柔軟性と行動力はふるさと納税の業務においても大変良い影響を与えています。寄付という温かな行動が循環して、こどもたちの笑顔も生み出しています。これまでインタビューを行った自治体職員の方と同様に、松谷様は返礼品を提供してくれる事業者に直接足を運び現場を見ることの重要性を述べられています。ふるさと納税はITビジネスと言われますが、その基礎となるものは全て人と人の繋がりが重要であることを改めて認識しました。インタビューのご協力、誠にありがとうございました。

 

社名:株式会社ふるさと納税総合研究所本社所在地:⼤阪府⼤阪市
代表取締役:⻄⽥匡志(中⼩企業診断⼠、総合旅⾏業務取扱管理者)
事業内容:ふるさと納税市場における調査、研究、アドバイザリー、コンサルティング、ソリューション提供等
HP:https://fstx-ri.co.jp/

 
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株式会社ふるさと納税総合研究所

当社はふるさと納税制度の独立系シンクタンクです。総務省、自治体、関係企業と連携しふるさと納税の価値
や有用性を発信しています。また、総務省様、自治体様、関連企業様への助言やコンサルティング業務を通じて
ふるさと納税の持続的で健全な発展を目指します。
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