〜福井県坂井市のふるさと納税にかけるこだわり〜
ふるさと納税の使い道にこだわった寄付の募集を⾏なっている福井県坂井市⼩⽟様のインタビューレポートを発表しました。
ふるさと納税の寄付額のみを追い求めるのであれば、ゼロサムゲームであり、勝者と敗者だけになります。制度の持続性の疑問符がついてきます。
ふるさと納税の経済波及は幅広いものであり、短期だけでなく中⻑期で⾒るべきものと考えます。
寄付の使い道、寄付者との関係性、事業者の販路拡⼤など様々です。今回は寄付の使い道であるべき姿を追求している福井県坂井市の事例を研究してみました。南房総市の松⽥様からのご紹介です。
福井県坂井市は、東尋坊と丸岡城の2⼤観光地を抱え県内で最も⼊り込み客数が多い⾃治体です。加えて、⽢えび、越前がにといった海の幸にも恵まれながら、コシヒカリの⽣産量と福井県のブランド和⽜ 若狭⽜の飼育量でも県内⼀位を誇り、⾷材も豊富な地域です。ふるさと納税における坂井市の特徴は、寄付⾦を活⽤する具体的な事業が豊富であり、かつ、寄付者⾃⾝が⽀援したい具体的な事業を選べることが挙げられます。この坂井市で平成28年から現在まで7年間に渡りふるさと納税業務を担当されている⼩⽟⽒にお話をお聞きしました。
寄付を通じて寄付者との交流と市⺠の市政参画を深めてきた
坂井市の寄付受⼊の基本的なスタンスは、寄付者が応援したい事業を直接かつ具体的に選ぶ受付⽅法を採⽤していることです。特にふるさとチョイスでは、寄付者が使い道をきちんとご覧いただいた上で寄付する仕組みになっていることに加え、坂井市からも寄付の詳細な活⽤報告をしています。このように坂井市は寄付の使い道を通じて寄付者との交流を⼤切にしています。
ここまでの取り組みができている秘密は、坂井市の条例にあります。
ふるさと納税が始まった平成20年に寄付⾦の使い道を議員や職員だけで決めてしまうのではなく、市⺠から公募し、市⺠と⼀緒に決めていこうという「寄附による市⺠参画条例」を制定しました。
条例に基づき、寄付⾦の使い道は市⺠から公募しています。実際の決定をする第三者委員会は、メンバー9⼈のうち4⼈は市⺠の代表者、2⼈は議会の代表者と、合計6⼈が市⺠で構成されています。寄付⾦の使い道を決めるのにこれだけの割合の市⺠を⼊れる例は全国でも珍しいのではないでしょうか。この条例を平成20年から今まで貫き通してきました。
今ではふるさと納税の使い道についてキャンプ場の整備や地場産業である越前織⺟⼦⼿帳ケースの制作及び配布などのアイデアが市⺠から多く寄せられています。
より⼤きな夢をより早く形にするための返礼品運⽤
坂井市が返礼品を始めたのは平成29年のことでした。私がふるさと納税の担当になったのはその前年の平成28年。返礼品を⽤意するか否かについて研究するプロジェクトチームを⽴ち上げました。
それまで坂井市では返礼品がまったくなかったものの寄付は年平均300万円ほど集まっていました。それはそれで確かに素晴らしいことだったとは思います。しかし当時、ふるさと納税による寄付獲得で実現せねばならない事業が合計8つありました。今の年間300万円の寄付獲得ペースでいくと、事業実現までに何と19年もの時間がかかると試算されたのです。
坂井市にとって必要な事業を早く実現するためには、返礼品という「ツール」を導⼊した⽅がいいとの結論に⾄りました。加えて、当時のふるさと納税市場の成⻑性からすると、今ある事業以上に、もっと⼤きな市⺠の夢が叶えられるチャンスであると判断されました。こうして平成29年から返礼品の運⽤が始まったのです。
おかげで平成29年以降、寄付は増え続けています。しかし私たちは寄付者に対し「ふるさと納税はあくまで寄付である」ということを認知していただきたいと思っています。逆に⾔えば、「ふるさと納税で返礼品を買った」との印象は持ってもらいたくありません。そのため、寄付者には市⺠によるメッセージ付きの事業報告書を送っています。これには、寄付を活⽤した⼈、または寄付の恩恵を受けた⼈の顔写真や感謝のコメントを必ず載せるようにしています。
事業者同⼠のコミュニケーションの場を提供する
坂井市では事業者さんに向けてふるさと納税を通じたビジネス⼒向上のための勉強会を年2回以上開催しています。そこでの懇親会での話です。
醤油を作っている道の駅さん、⽟⼦農家さん、お⽶農家さんがたまたま並びの席になりました。これを機に3者が⾃らコラボし「たまごかけご飯セット」を開発したところ、予想以上のお申し込みをいただきました。
これに着想した私は、「フィーリング事業者」という取り組みを実施しました。カップルをマッチングするフィーリングカップルの如く、商品開発や販路開拓したい事業者さんが集まってそれぞれプレゼンし、気に⼊った事業者同⼠のミーティングの場を市が準備するものです。このフィーリング事業者の取り組みポイントは、単なる組み合わせであるセット商品ではなく、ストーリーを持ったコラボ商品を⽣み出す場であるこということです。魅⼒の⾜し算ではなく、魅⼒の掛け算となるように商品企画をおこないました。
例えば、海苔を作っている海⼥さんとお⽶屋さんがコラボするなら、海苔とお⽶のセット商品ではありません。各々が無添加、無農薬というオーガニックにこだわりのある事業者であることに着⽬し、親⼦で楽しめる「無農薬のおにぎりセット」といったコラボ返礼品に仕⽴てました。コラボであることを寄付者に分かりやすくPRアピールするため、海⼥さんと農家さんが並んでいる⽣産者写真も撮影し、商品説明ページに掲載するようにしています。
このような取り組みにより、既存事業者さんが知り合いの事業者さんにふるさと納税への参画を勧めてくれることが増えてきました。返礼品の申請も⽉に60〜80件ほど出てくるようになり、返礼品の多様化が進んでいます。
ふるさと納税を担当するということは地域愛を形にするということ
ふるさと納税市場が拡⼤、成熟化し、⾃治体同⼠の寄附獲得競争が激しくなってきました。そのような中、新たにふるさと納税を担当することになった⼈の中には、寄付を増やすことが⽬的化しているケースもあるのではないかと思います。私はふるさと納税を担当する前は税⾦関係の部署にいました。役所の業務は⼿続きや申請など、書⾯のやり取りが多くを占めます。しかしふるさと納税の業務は単なる⼿続きではありません。地域の事業者さんのパートナーとなり、システム会社、ポータルサイト、中間事業者などとシナジーを⽣み出す仕事です。このような仕事を担当できることを思っています。
あとがき=インタビューを終えて
ふるさと納税の仕事は⾯⽩い!という⼩⽟様の⾔葉が印象的でした。⾏政の通常業務では味わえないような、マーケティング、スピード感、外部ネットワークなどを経験することができます。⾃治体職員のやる気次第で、いろいろなことが成し遂げられていました。事業者からも多くの信頼を勝ち取ってこられたと思います。
寄付の使い道については、坂井市が制度当初に条例にしたところが素晴らしいことであり、これを他の⾃治体が参考にすることは容易ではありません。ガバメントクラウドファンディングでなく、通常のふるさと納税において寄付の使い道を事業として明⽰できていることは、より多くの⽅に伝わっているはずですので、⼤変良い⽅法と思います。
通常のふるさと納税の寄付の使い道を丁寧に説明し、途中経過や結果をこまめにを報告することで、ふるさと納税の意義の達成に近づきますので、数多くの⾃治体の⽅に⼼がけていただければと思います。
社名:株式会社ふるさと納税総合研究所本社所在地:⼤阪府⼤阪市
代表取締役:⻄⽥匡志(中⼩企業診断⼠、総合旅⾏業務取扱管理者)
事業内容:ふるさと納税市場における調査、研究、アドバイザリー、コンサルティング、ソリューション提供等
HP:https://fstx-ri.co.jp/
株式会社ふるさと納税総合研究所のプレスリリース⼀覧
https://prtimes.jp/main/html/searchrlp/company_id/104918